One STEP
「香澄が演劇部入れば寺原先輩と話できるかもしれないのにー」
ぶーっと頬を膨らませながらそう言う琴子に、あたしは目を見開いた。
そんな!
人事だと思って!
あたしはちょっと不機嫌に、ブーっと頬を膨らませたまま琴子を睨む。
「だったら琴子が入ればいいじゃん?」
あたしより、琴子のほうがよっぽど絵になる。
間違いなく。
なんでこういう可愛い子を誘わないのかなぁ…。
演劇なんて顔じゃないの?
なんて思って、でも藤田先輩はそんなカッコよくないか…。
なんて酷いことを思ってみたり。
そんな一方で、香澄の変わりにあたし入っちゃうよー的な言葉がくると予想していたのに、返ってきた言葉は呆気ないものだった。
「あたしは無理だよ」
テニス部入るもーん、って琴子は髪をくるくると指に絡めながら言う。
琴子は小学生の頃からテニスをしているらしい。
ずっと続けていくようで、他に移る気はゼロのようだ。
そこんところはいくら大好きな先輩がいても譲れない、というのが何だかカッコいいなぁと思った。