One STEP
「わわっ!?先輩?!」
状況が理解できなくて、あたしは目を真ん丸くさせた。
「香澄ちゃんならできるよ。勇気をもって」
先輩の声があたしに響く。
落ち着きを取り戻す心。
先輩はあたしを離し、優しく頭を撫でてくれた。
なんだかそれだけで涙が出てきそうだ。
「はい…っ、頑張り…ます」
震える声で、必死にこう言った。
大きく深呼吸を繰り返していると声が聞こえた。
「こんにちわーっ!」
夏沙先輩の声。
始まった合図。
ゴクリと唾を飲み込む。
そんな単純なことでさえ、今はまともにできない。
「頑張ろうね」
慎也先輩はそう囁いて拳を突き出してくる。
あたしも同じく拳を突き出し、コツンと軽く合わせた。