あの日の恋
プロローグ
"車内が大変混んで参りましたので
車内のお客様は詰めてお乗りください"
いつもよりも混んでいる電車内
中学生になりたての沢木 雪菜 12歳
ドアの近くで小さくなる自分
周りは汗をハンカチで拭う
サラリーマンばかり。
思春期のあたしからしたら
このシチュエーションは苦手だ。
"早く駅についてー…"
そう心の中に叫んだ時
さわ…
"え?"
スカートの上から
ゆっくり触られている感覚が
はっきり伝わってくる。
"痴漢!"
そう思っても怖くて声も出ない。
どんどん手は色々なところを
触り始めて、この満員電車で
この状況は誰の目からも見えない。
"いや…っ‼…誰か助けて…っ"
目にはこらえきれない涙が溢れて
怖くて動くこともできない…。
「やっやめてくだ…「おい。」
勇気を出して振り絞った声を
遮るように痴漢男の胸ぐらをつかんだ
学生服の男の子だった。