《短編》切り取った世界
『弘樹、もぉやめろって!』


瞬間、兄貴は俺の手首を掴んで静止した。


いつもいつも、俺一人が怒ってるんだ。



「放せよ!
俺風邪引いてるから、あとは二人でその写真でも褒めあってろよ!」


その手を強引に振り払い俺は、兄貴を睨みつけた。


瞬間、兄貴は視線を落とす。


傷ついた顔なんかされたら、また俺が悪者扱いされるんだ。



『…熱、あるのか?』


「―――ッ!」


そう言って兄貴は、俺の額に触れた。


何もかもが、ガキみたいな扱い。


唇を噛み締めても、逃げることは出来なくて。



『美緒!
風邪薬持ってきてやれ!』


『ちょっ、何言ってんの?!
弘樹はタカちゃんに最低なこと言ったんだよ?!
そんなの、自業自得じゃない!』


甲高い声で、美緒の言葉が俺を突き刺した。


悔しくて、悔しくて堪らない。


何でいつも、俺ばっかりが…!



『美緒!』


兄貴の一声に、美緒は渋々薬の入っている引出しに向かった。


こんな時ばかり兄貴面。


そんな兄貴の言葉にだけは素直に従う美緒。


そのどっちもに、虫唾が走る。


こんな顔見られたくなくて俺は、兄貴を再び睨みつけ、自分の部屋に入った。


バタンと閉める、あっちとこっちの境界線。


こんな反抗しか出来ないなんて、本当に嫌になる。


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