《短編》切り取った世界
真っ暗な部屋は、本当に俺の心の中みたいで。


いつの間にか降り出した雨が、その世界に音を響かせて。



『タカちゃん!
何で弘樹のこと甘やかすの?!
もぉ、放っておけば良いじゃない!!』


リビングから聞こえてくる、美緒の高い声。


昔はこんなんじゃなかったのに。


なのにいつの間にか俺は、美緒に嫌われてしまった。


全部全部、兄貴の所為。



『…美緒。
弘樹を責めるな。』


その言葉が聞こえた瞬間、ガチャッとドアが開かれた。


俺だけの空間に、こちらに近づく足音が響く。


どうせ、いつものことだから。


うつ伏せていた体を、そのまま壁の方に向けた。



『…弘樹。
薬ココに置いておくから、悪化する前にちゃんと飲め。』


俺がどんなに反抗しようと兄貴は、俺に対して怒ったりはしない。


それが余計に、俺をイラつかせる。


兄貴のことでキレたはずなのに、結局最後に俺を守ってくれるのは兄貴だけなんだ。


親や美緒が俺をどんなに責めたって、兄貴だけはちゃんと俺を庇ってくれる。


俺の見方は、兄貴だけ。


だからこそ、そんな兄貴が大嫌いなんだ。



『…弘樹が悪いわけじゃねぇからな。』


背中から、それだけポツリと聞こえた。


そして静かに、兄貴は俺の部屋から出て行く。


雨音ばかりが響く、静かすぎる部屋。


ドアの向こうからだって、何の声も聞こえなくなって。


それが余計に、俺の胸を締め付けた。


もしかしたらあの二人は今頃、って。


考えたくないのに、そんなことばかりが頭を占める。


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