《短編》切り取った世界
泣いている美緒を見て、“守ってやりたい”と思った遠い昔。


なのにいつも、俺なんか何にも役に立たなかった。


俺たちの手を引いてくれた、兄貴が居たから。


会社の社員旅行で山に行って迷子になった時だって、

俺や美緒を励ましてくれたのは兄貴だった。


兄貴を挟んで俺と美緒。


その延長線上がきっと、今の俺達の関係なんだ。


俺が女だったとしてもきっと、俺じゃなくて兄貴に惚れるだろう。


馬鹿みたいな兄貴に対するコンプレックス。


美緒の心だって、簡単に持って行ってしまう兄貴のこと、許せるわけがない。


3歳の差は、いつまで経っても縮まることはなくて。


俺だけが、取り残されたみたいにその背中から離れていく。


醜い嫉妬心を剥き出しにしたって、兄貴はそんな俺を包み込んでしまうんだから。


居ない方が良いのは、きっと俺の方なんだ。



認められたかったから、好きでもない勉強だって頑張ったのに。


学年で一番になっても結局、絵画コンクールに出した兄貴の作品が金賞を取って。


俺なんか、簡単に霞んでしまう。


だったらいっそ、美緒と一緒にどっかに行って欲しい。


俺なんかと会うこともないよな、遠い遠いところに。


なのに兄貴は、それをしない。


きっと美緒の気持ちに気付いてるはずなのに。


その度に美緒の傷つく顔ばかりを見せられる。


美緒が傷つくのは、兄貴のことばかり。


そんな女なんか、俺に守れるはずがないのに。


なのに心のどこかで期待している自分が居て。


最低だと思った。



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