《短編》切り取った世界
いつの間にか、眠っていたらしい。
机の上には、兄貴が置いて行った風邪薬の箱とミネラルウォーターが、
未開封のまま残されている。
薬を飲まないことが、何の反抗になると言うんだろう。
少しだけ冷静になった頭で、醜い自分を嘲け笑った。
『―――って言ったよねぇ?!
…カちゃん……んでよ?!』
「―――ッ!」
瞬間、体が固まってしまったみたいに動かなくなって。
言い争ってるのは多分、美緒と兄貴だろう。
なのに俺は、出ていくことも出来なくて。
打ち鳴らす心臓の音ばかりが世界を支配し、否が応にも神経が耳に集中してしまう。
ゴクリと生唾を飲み込みながら俺は、その声に聞き耳を立てた。
『それは、子供の頃の話だろ?!』
『お願いだから、行かないで!!』
美緒の叫び声と同時に、バタンッ!と力強くドアを閉める音が聞こえた。
微かに聞こえてくる、美緒のすすり泣くような声。
こんなの、息苦しくて堪らない。
美緒が兄貴を好きなことくらい、ずっと昔からわかってたんだ。
だから、傷つかないはずだったのに。
ただ、目を背けてただけだったのに。
今更突きつけられたって、悲しくなんてないはずなのに。
なのに気付いたら、体の力を支えきれないほどになっていた。
俺の家で繰り広げられる、俺抜きの会話。
俺の世界で繰り広げられる、兄貴と美緒の関係。
俺だって、当事者なはずなのに。
なのにいつも、そこに入れないんだから。
机の上には、兄貴が置いて行った風邪薬の箱とミネラルウォーターが、
未開封のまま残されている。
薬を飲まないことが、何の反抗になると言うんだろう。
少しだけ冷静になった頭で、醜い自分を嘲け笑った。
『―――って言ったよねぇ?!
…カちゃん……んでよ?!』
「―――ッ!」
瞬間、体が固まってしまったみたいに動かなくなって。
言い争ってるのは多分、美緒と兄貴だろう。
なのに俺は、出ていくことも出来なくて。
打ち鳴らす心臓の音ばかりが世界を支配し、否が応にも神経が耳に集中してしまう。
ゴクリと生唾を飲み込みながら俺は、その声に聞き耳を立てた。
『それは、子供の頃の話だろ?!』
『お願いだから、行かないで!!』
美緒の叫び声と同時に、バタンッ!と力強くドアを閉める音が聞こえた。
微かに聞こえてくる、美緒のすすり泣くような声。
こんなの、息苦しくて堪らない。
美緒が兄貴を好きなことくらい、ずっと昔からわかってたんだ。
だから、傷つかないはずだったのに。
ただ、目を背けてただけだったのに。
今更突きつけられたって、悲しくなんてないはずなのに。
なのに気付いたら、体の力を支えきれないほどになっていた。
俺の家で繰り広げられる、俺抜きの会話。
俺の世界で繰り広げられる、兄貴と美緒の関係。
俺だって、当事者なはずなのに。
なのにいつも、そこに入れないんだから。