《短編》切り取った世界
「知るかよ!」


ぶっきら棒に俺は、兄貴にぶつけた。



『…腹減ったしな。
弘樹、何か作れよ。』


「うるせぇ!
居候のくせに態度デカイんだよ!」



おまけに身長も俺よりデカイところが、余計に腹が立つ。



『…お兄様に何て口の利き方だ?
大体、金払ってんのは、お前の親であり、俺の親でもあるんだよ。
だから、厳密に言うとお前の家じゃない。』


睨まれると、どうにも言葉が出てこない。


ムスッとして俺は、苛立ちをぶつけるようにバッグを蹴り飛ばした。


俺より馬鹿なくせに、こーゆーことだけは口が立つ。




―ガチャッ…

『ただいまッ♪』


ドアが開く音と同時に、女の声が聞こえてきて。


何でこう、みんなして勝手なんだろう。



『あっ、タカちゃん帰ってたんだ?
ちょうど今日は、タカちゃんの好きなすき焼きにしようと思ってたの。』


『んじゃ、早く作って。』


目の前で繰り広げられているままごとみたいなやり取り。


買い物袋をさげた彼女“美緒”は、兄貴の言葉に鼻歌を混じらせた。



「美緒!
お前の家は隣なんだから、自分の家みたいに振舞うな!」


壁越しの隣の部屋を指差し俺は、声を荒げた。



「大体、兄貴も兄貴だよ!
さっきも言いかけたけど、フラフラして大学生の弟の部屋に寝泊まりなんかすんな!」


放った言葉に、誰からの返事もなくて。


俺の乱れた呼吸だけが、虚しく響く。



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