《短編》切り取った世界
「…だから、何?」


なるべく平然を装い、それだけ聞いた。


瞬間、驚いたように美緒は、目を見開いて。



『…“何?”って…心配じゃないの…?』


「…心配なのは、美緒だけだろ?
少なくとも俺は、清々してる。」


『―――ッ!』


俺の言葉に美緒は、唇を噛み締めて顔を俯かせた。


いっそのこと、“もぉ二度と帰ってこない”なんて言ってくれたら良かったのに。


そしたら嬉しくて嬉しくて、涙だって流せたろうに。



『…いつから弘樹とタカちゃんは、そんな風になっちゃったの…?』


悲しそうに美緒は、ポツリと呟いて。


美緒の所為に決まってんじゃん。


だけど俺は、言葉を飲み込んだ。



『…弘樹もタカちゃんも、昔の方が良かった…』


その言葉が、俺の胸を締め付けた。


兄貴の背中ばかり追いかけてた頃の、何が良かったと言うんだろう。


何も気付けずに美緒を想っていた頃の、何が良かったと言うんだろう。



「…変わるんだよ、人間は。」


どれほど俺に、残酷な言葉を言わせれば気が済むと言うのだろう。


抱きしめることも、突き放すことも出来ないなんて。


こんなの、苦しすぎる。



『…昔停電したとき、弘樹は“俺が助けてやる!”って言ってくれたよね?
タカちゃんだって小学校の頃、“俺が一生守ってやる!”って言ってくれたのに…!』


「―――ッ!」



それが、兄貴と美緒の“約束”…?


俺の知らないところで交わされて、そして今も美緒が引きずっている約束。


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