《短編》切り取った世界
「いい加減気付けよ!
結局、兄貴は嘘つきなんだよ!」


『―――ッ!』



傷つけたいわけじゃないのに。


だけどもぉ、止めることなんて出来なかった。


歯を食いしばり、握り締めた拳に力を入れて。



「…それでも兄貴を待ちたいなら、勝手にしろよ。
邪魔なのは俺なんだから、俺が出て行けば良いんだろ?!」


叫んでそのまま、上着を持って部屋を出た。


兄貴のときは、すがりつくようにして止めたくせに。


なのに俺が何をしようと何を言おうと、美緒には届かないんだから。


期待した分傷ついて。


もぉ何度、こんなことを繰り返してきただろう。



いつものマフラーが、今日は首になくて。


余計に真冬の冷たい風を感じた。


虚しさばかりが俺を支配して。


この前まではバレンタンだの何だので賑わっていた街が、

いつの間にかいつもの落ち着きを取り戻していた。



焼き増しだと思っていた毎日が、確実に変化した瞬間。



学年で一番の成績になっても、バスケで地区大会を突破しても。


何一つ、兄貴を超えた気になれなかった。


中学に入ったところで、結局は兄貴の亡霊ばかりが憑き纏って。


いつもいつも、兄貴の周りには人が集まっていた。


兄貴と同じで“すごい”のが当たり前。


期待を裏切ろうものなら、口には出さないため息を吐き出されて。


結局俺は、“佐久間隆志の弟”でしかない。


押し付けられる型枠にはまったように演じて。


“本当の俺”がどんなものなのか、自分でもわからなくなってきて。


< 27 / 42 >

この作品をシェア

pagetop