《短編》切り取った世界
沈みきった西日が、部屋を薄墨に染める。


モノトーンでまとめた家具が、今は余計に物悲しさを演出していて。


体には感じないはずの風が、心の中に吹きすさぶ。



『…んで?
そろそろ何か言ってくれても良いんじゃないか?』


「―――ッ!」


ハッとして顔をあげると、俺の瞳を斜めに捕らえた兄貴の視線とぶつかって。


自分で呼び出したくせに、まるで俺自身が拷問でも受けているようだ。



「…兄貴、知ってた…?」


生唾を飲み込みながら、逃げるように視線を外した。


落とした手元には、馬鹿みたいに固く握りしめている俺自身の拳がある。


微かな震えさえも怖くて、無意識のうちに唇を噛み締めて。



「…俺、本当の子じゃないんだって…」


『―――ッ!』


言ったあとに視界の端に移ったのは、目を見開いている兄貴の顔。


いつものポーカーフェイスなんかどこにもなくて、その姿は酷く滑稽に映る。



『…誰が、そんなこと言ったんだ?』


まるで睨むような兄貴の視線が突き刺さって。


俺に対して怒る兄貴なんか、初めてだった。



『…言っとくけど弘樹は、間違いなく父さんと母さんの子だ。
俺だって弘樹が生まれた時のことくらい、幼心に記憶にある。』


「―――ッ!」


顔を上げ、目を見開いた。


だけど兄貴の顔は、とても嘘を言っているような顔ではなくて。



「…じゃあ…」



じゃあ、本当の子じゃないのは、兄貴…?



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