《短編》切り取った世界
『俺でもない。』


まるで俺の心を見透かしたように、兄貴はそれだけ呟いた。


体中の血液がまるで違う場所を巡ってでもいるように、

ゾワゾワと得体の知れない感覚に襲われて。


積み上げたパズルが、音を立てて崩れた瞬間。



『…本当の子じゃないのは、美緒だ。』


「―――ッ!」


『…美緒は、おじさんとおばさんの子じゃないんだ。』


まるで諭すように兄貴は、もぉ一度そう力強く言った。


嘘だと思った。


そんなはずない、って。



『…美緒は、もぉずっと前から知ってる。』



“両親には感謝してるから、あたしも会社に貢献したいの”


確かに美緒は、俺にそう言った。


志望していた高校も、両親に頼まれて地元の有名な女子高に変えた。


無理して俺と同じレベルの高い大学に入って、会社のためにと商業を学んでいる。


そう考えれば、全てのつじつまが合って。


ただ、言葉を失ったんだ。



『…生まれたばかりの美緒がおじさんとおばさんの家に来たのは、弘樹が生まれてすぐのことだった。』


“よく覚えてるよ”と兄貴は、遠い昔を思い出すように天井を仰いだ。



『…みんな、俺が小さかったから覚えてないと思ってるんだろうけど。
美緒の本当の両親のことは、聞くことなんて出来なから俺も美緒も知らないんだ。』



兄貴と美緒だけの秘密。


そんな風に言われている気さえして、唇を噛み締めた。



『…美緒がそれに気付いたのは、小学3年の頃。』


兄貴の言葉なんか、ただ薄ぼんやりとしか頭まで響かなくて。


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