《短編》切り取った世界
「そんなのただの、自己満足じゃねぇかよ!!」



会社を継ごうともしない兄貴は、昔から自分勝手に生きてきた。


そのしわ寄せが来た俺に対する、罪悪感からでしかないから。


そんな同情、俺はいらない。



「言えよ、本当のこと!!
兄貴は美緒が好きなんだろ?!」


『―――ッ!』


だけどやっぱり、兄貴は何も言ってはくれなくて。


そんな同情で俺のために自分の気持ちを押し殺す兄貴なんか…


そんな兄貴なんか、俺は好きじゃない。


ずっとずっと、自由に生きてる兄貴に憧れてたのに。



「…連れてってやれよ、美緒のこと…!
…もぉ、二人で消えてくれよ…!」


俺の声は、いつの間にか陽が沈みきった夕闇のとばりに響いて。


瞬間に唇を噛み締めた兄貴の顔を、酷く悲しげに映し出した。



『…美緒は、そんなこと望んでないよ。
だから…!』


そこまで言った兄貴は、言葉を飲み込んだ。


“だから、お前が”と、いつもの兄貴なら続けただろう。


それでも兄貴は、最後の最後でそう言ってはくれなくて。


きっと本当の兄貴は、美緒を連れていきたいって一番強く望んでるはずなのに。


愛してるからこそ、美緒を想うからこそ兄貴は、

俺に託す言葉を言いたくて、だけど言えなくて苦しいのだろう。



瞬間、俺はもつれる足で走り出した。


今なら多分、美緒は家に居るだろうから。


本当の兄貴は、優しすぎてその一歩を踏み出せないだけだから。


だったら俺が…


今度は俺が、兄貴の背中を押してやる番だから。


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