《短編》切り取った世界
―ドンドンドン!

「美緒!美緒!!」


だけど一秒さえも待ち切れず、部屋のドアを開けた。



『―――ッ!』


瞬間、玄関の手前まで来ていた美緒は、俺を見るなり目を見開いて。



『…えっ、どーしたの…?』


「大変なんだよ、早く来い!!
兄貴が日本を離れるって―――!」


戸惑う美緒の腕を強引に引っ張った瞬間、だけど美緒は力を込めた。


恐る恐る俺は、振り返って。



『…うん、知ってる。』


そう呟く美緒は、唇を噛み締めた。



「…だったら…!
だったら何で黙ってるんだよ?!
兄貴が居なくなっても良いのかよ?!」


『…タカちゃんはね…?』


少しの沈黙の後、美緒はまるで選ぶようにして言葉を紡いで。


俺が握っている自らの左手に力を込めた。



『…タカちゃんのことは、誰も縛っちゃダメなんだよ。
自由で生き生きしてるタカちゃんが、一番タカちゃんらしいから。』


肩を震わせる美緒に、俺は何一つ言葉を掛けることが出来なくて。


どれほどなのかわからない沈黙の間に、

言葉の代わりとなって美緒の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちた。


それが、美緒の本当の気持ちだってのに。



「…美緒だって本当は、兄貴と一緒に居たいんだろ?!
何を迷うことがあるんだよ?!」


『―――ッ!』


ずっと美緒を支えていたのは、兄貴の言葉だったんだ。


きっと、兄貴だけが美緒の苦しみを取り除くことが出来る。


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