《短編》切り取った世界
―コンコン!

『弘樹!怒らないでよ。
そんなに怒ってると、すき焼きに弘樹の嫌いなピーマン入れるわよ?』



食えるか、そんなもん!


美緒の言葉に、余計に気が重くなってしまう。



美緒は、俺たちの従兄妹。


実家同士も元々近所だし、両親の会社は親族経営だから、美緒のお父さんも役職についてる。


今は学科こそ違えど、俺と同じ大学に通って簿記だの商業を勉強している。


いつの間にか俺の隣に部屋を借りてたまでは良かったが、

兄貴が居候するようになってからは、

“男ばっかりで食事ちゃんとしてないでしょ?”なんて言っては、

俺の部屋に出入りするようになった。


そして始まった、ほとんど三人暮らしみたいな関係。


俺は美緒が好きだから良いけど、邪魔な兄貴が居る。


それに何より、美緒の気持ちなんて怖くて聞けない。


だって俺たちは、昔から一緒で、血の繋がった従兄妹で。


“気持ち悪い”なんて言われたら、全てが終わってしまうから。



吐き出したため息が、まだ肌寒い部屋に白く消えて。


不貞寝みたいに俺は、ベッドに倒れ込んだ。


すっかり陽が沈みきってしまった世界は、次第に宵闇に包まれ始めて。


まるで俺の心の中みたいに、黒い世界が広がっていく。




「…兄貴には甘いくせに…!」


呟いてみても、何にもならなくて。


余計に現実を思い知らされる。


もしかしたら美緒は、兄貴が好きなのかも、って。


こんな生活、楽しいわけがない。


俺は兄貴に、勝てるものなんてひつもないんだから。


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