《短編》切り取った世界
「今行かなきゃ、もしかしたらもぉ二度と―――」
『良いの!』
“良いのよ、もぉ”と。
絞り出した美緒の声は震えていた。
『…あたしは、両親にここまで育ててもらった恩返しをしなきゃいけないの…。』
「―――ッ!」
美緒が、兄貴に着いて行かないと言う“本当の理由”がそこにはあった。
きっと兄貴は、そんな美緒の気持ちを一番わかっていたんだろう。
「…ごめん、知ってた…」
『―――ッ!』
「…でも、俺の代になって…お前みたいなトロい社員なんかいらねぇよ…!」
ごめんな、美緒…
だから早く、兄貴のところに行けよ…!
「…あんなちっちゃい会社くらい、俺一人で十分なんだよ…!
美緒の代わりなんかいくらでも居るんだから…!」
瞬間、美緒は走り出した。
バタンとドアが閉まり、パタパタと足音がよく響く廊下に消える。
やっと美緒は、俺の心の中からも消えてくれたんだ。
崩れ落ちるようにして支えきれなくなった体を壁に預けた。
ポッカリと空いてしまった俺の中の兄貴と美緒のスペースは、
今更ながらにこんなに大きなものだったと知って。
込み上げてきた涙を堪えるようにして顔を覆った。
ほろ苦いばかりの味が俺の中を占める、冬の終わり。
“初恋は実らない”って言葉を思い出した。
『良いの!』
“良いのよ、もぉ”と。
絞り出した美緒の声は震えていた。
『…あたしは、両親にここまで育ててもらった恩返しをしなきゃいけないの…。』
「―――ッ!」
美緒が、兄貴に着いて行かないと言う“本当の理由”がそこにはあった。
きっと兄貴は、そんな美緒の気持ちを一番わかっていたんだろう。
「…ごめん、知ってた…」
『―――ッ!』
「…でも、俺の代になって…お前みたいなトロい社員なんかいらねぇよ…!」
ごめんな、美緒…
だから早く、兄貴のところに行けよ…!
「…あんなちっちゃい会社くらい、俺一人で十分なんだよ…!
美緒の代わりなんかいくらでも居るんだから…!」
瞬間、美緒は走り出した。
バタンとドアが閉まり、パタパタと足音がよく響く廊下に消える。
やっと美緒は、俺の心の中からも消えてくれたんだ。
崩れ落ちるようにして支えきれなくなった体を壁に預けた。
ポッカリと空いてしまった俺の中の兄貴と美緒のスペースは、
今更ながらにこんなに大きなものだったと知って。
込み上げてきた涙を堪えるようにして顔を覆った。
ほろ苦いばかりの味が俺の中を占める、冬の終わり。
“初恋は実らない”って言葉を思い出した。