《短編》切り取った世界
美緒の作ったすき焼きを、みんなで囲んでつついた。


まだ不機嫌な、ガキみたいな俺。



『…弘樹、まだ怒ってんのかよ。
しょうがねぇから、俺の豆腐やるって!』


そう言って兄貴は、俺の器に豆腐を入れた。


こうやって兄貴はいつも、俺の機嫌を取ろうとする。


だから甘えて俺は、いつまで経ってもガキみたいな性格が直らないんだけど。



「…嫌いなだけじゃん。」


口を尖らせる俺。


こんな姿、ホントは美緒になんか見られたくないんだけど。



『ハイハイ!
喧嘩はお終い!』


美緒の一言に、言葉を飲み込んだ。


虚しく響く、テレビからの笑い声。



♪~♪~♪

突然に鳴り響いたのは、兄貴の携帯。


ため息を混じらせながら携帯を持って立ち上がった兄貴は、自分の部屋に消えてしまった。


その後姿を見送り俺はいつも、複雑な気持ちになってしまう。


それはきっと、美緒も一緒だろうから。


俯く美緒の顔なんか、見ることが出来なかった。



すぐに部屋から出てきた兄貴の手には、上着が持たれていた。



『…タカちゃん、出掛けるの?』


『おう、飯の途中で悪ぃな。』


言葉を残し兄貴は、すぐに家を出た。


残された俺と美緒が、兄貴の行先なんか知るはずなくて。


いつもいつも、この後の会話に困ってしまうんだ。


美緒と二人きりになれるのは、確かに嬉しいけど。


兄貴が居るから俺たちの距離が近づいたことも確かだから。


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