裂果
ふわ、と瞼が開く。

睫毛に縁取られた目は潤み、虹彩は赤く染まったまま。

“悪魔”の新川は、ためらいながら手を伸ばし、天音の頬に触れた。



「……傍には、母さんと竜也さんがいる」

「そっか」

「でも、誰も助けにはならない。……無理だから」



天音の頬に添えられていた手が、今度は天音の手の上に重なる。

生きている温度を持った、優しい手だ。



「契約したら、鈴原は、俺の助けになるのか……?」

「なる、って言われたよ。きっと大丈夫」

「鈴原、それで本当にいいのか?」

「いいよ。私の直感めちゃめちゃ当たるもん」



正直に言うと、天音は全てがうまくいくとは思っていない。

契約することで大変な目に合うような気もしていた。

けれども、その予感以上に、温かい予感が胸の内を駆け巡ったから。



だから天音は、あの時心を決めたのだ。
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