裂果
『へえ。良かったなあ……ああ、やり方はご存知ですか』



何もかもを今日初めて知った天音に、そんなことがわかるはずはない。

そこで新川に訊いてみたが、新川も知らないという。

肌に傷をつけて血の契約、なんて痛そうな契約だったらどうしよう、と天音は自分の想像に震えた。



『簡単ですよ。キスをすれば、それでいい』



聞いてしばらく、天音は言葉を呑み込めずにいた。



「えっ、それは口ですか、口なんですか」

『マウストゥマウスですが嫌なんです? こんなのお約束でしょう』

「お約束ですけど! 心の準備ってものが」

『できてないんですかね』

「できてます!」



覚悟はできている。

それでも心臓はどくどく脈打って、体の中はざわめいているのだ。



『それならもう、私は何も言いません。……透夜を、よろしくお願いします』

「はい」



天音が静かに答えると、間もなく通話が切れた。
< 38 / 47 >

この作品をシェア

pagetop