裂果
天音は新川に向き直り、正座をした。



「新川くん」

「はい」



名前を呼んで、天音はふと考えた。

苗字だと物足りない気がして、そしてなんだか、遠すぎる気がして。


天音はそろりそろりと新川に近付いた。

ドレスの裾をきちんと整えて、携帯を新川に返して、もう一度、彼の名を呼ぶ。



「……透夜」

「……はい」

「契約、キスなんだって。口で」

「口で?」

「そう。……いい?」



新川――透夜は、首を傾げて瞬きをした。

そして天音の頬にそっと綺麗な指を添わせ、


返事の代わりに、一瞬だけ触れるように唇を重ねた。



優しくて、どこか怯えているようで、透夜の心を映したような力加減が痛かった。

いいんだよ、と伝えたくて、天音は透夜の背中に手を回した。



二度目のキスは、一度目よりも深くて、甘くて、苦しかった。
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