裂果
七海は逃げようとする天音の腰を腕でがっちり捕らえ、教室の後方にいた久遠を呼び出した。

他男子と技をかけあって遊んでいた久遠は、不満そうな顔をして近付いてくる。



「呼んだ? 何?」

「天音を保健室に連れてって。この子微熱」

「ん!?」



七海が強引に天音を差し出し、久遠がそれを受け止めた。

劇の主演、悪魔役を務める久遠は、男子の中でも背がかなり高い方だ。

そんな久遠に前に立たれると、天音は熱と威圧感とでくらくらしてしまう。



「天音、昨日吐いたろ? 寝とけってほら、行くぞ」

「別にいいって、いらないってば」

「はい平気ぶるんじゃねえ。お前はいっつもそうやって無茶して最後に倒れる、そうだろ!」



確かに言われた通りなので、天音は反論できずに唇を尖らせた。

久遠も天音の幼なじみで、七海と同じく天音の面倒を見てくれる側だった。

もちろん、今でも。



「お前歩かねえなら背負う! 担ぐ!」



久遠がやたら無理のある宣言をすると、周囲の男子がざわざわ騒ぎ始めた。



「え何!? 鈴原保健室? 俺連れてこうか!?」

「何それ俺が行く! いいだろ!?」


「だめだお前ら引っ込んでろ! 狩沢様一人で十分に決まってんだろうが」


「ちぇー」
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