裂果
狩沢様(自称)が居丈高に周囲の男子に言い放つと、浮かれて挙手争いをしていた彼らは不満そうに去っていった。

誰か別の人に連れて行かれるのも、背負われるのも、担がれるのも天音としてはあまり好ましくない。



「……一人で行きたいんだけどなあ」

「ちゃんと行くか?」

「うん。行く」

「仕方ねえなあ、ほら行ってこい。気をつけろよー」

「階段で転ばないでよー」

「転びません!」



軽口を叩きつつも、久遠と七海は優しく天音を送り出してくれた。



階段も危なげなく普通に降りて、天音は一階の保健室へ続く廊下までやってきた。

十月中旬の廊下は、天音の微熱も相まってか、ひんやり冷たい。

この辺りは人がめったに通らず、自分の足音がよく聞こえる。



保健室で寝るなんて、天音にとっては初めての体験だった。

そこまで熱が高いわけでもないのにベッドを一つ占領してもいいのだろうか、と悩む手は、保健室のドアをなかなか開けられない。



「……天音?」

「へっ」



背後から名前を呼ばれて、驚いて振り返った。

そこに立っていたのは、不機嫌そうな顔の透夜だった。
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