裂果
「透夜! おはよう」

「……おはよ」



透夜は挨拶するなり、保健室のドアに手をかけた。

見上げた横顔は、どうやら不機嫌というよりは体調不良らしい。

保健室に入っていく透夜の背中を追いかけて、天音も一緒に中に入った。

保健の先生は、職員朝礼の最中なのか不在。

見まわしても他の生徒の姿はなく、どうやらこの空間には透夜と天音の二人しかいないようだ。



今ここでなら、話せる。

とはいえ、いきなり本題に入るのもなんだか気が引けてしまう。



「昨日は時計ありがと。返すね」



結局、天音は当たり障りのない言葉から出してみることにした。

かっちりした腕時計を差し出すと、透夜は「ん」と短く返事して、時計を受け取って、保健室の隅までふらふら歩いていった。



そしてそのまま、一番端のベッドに倒れ込んだ。



「透夜……?」



透夜は倒れたまま動かない。

心配になって、天音は恐る恐る、沈黙する透夜に近付いた。
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