不器用な恋

運命的な出会い

家への帰り道。
夕姫奈も一緒。

歩いているあいだ、夕姫奈はいろんなことを話してくれた。

バイト先で出会った彼氏の話や、好きな音楽の話。



夕姫奈は変わった。

前は、男とかバイトの話なんてしなかった。



くだらない他愛もない会話盛り上がってた。



家に着くと、夕姫奈は真っ先にこう言った。

『おばさんは?』

一番聞きたくなかった質問だった。

『知らない。』

夕姫奈は知らないが、小学校の時からアタシの母親はあまり家に帰ってこなかった。

アタシが素っ気なく答えると、夕姫奈は何事もなかったように、明るく振る舞い始めた。

そして、夕姫奈は久しぶりに入ったアタシの部屋を見て、

『由月は変わってないや。昔のまんま。』
と笑って言った。


夜ご飯は2人で作り、アタシの部屋で食べた。


夜中じゅう、2人で笑ってた。


あっという間に、時間が過ぎていく。



ふと、思うと、優貴の顔が頭に浮かぶ。



『女子だろ!』

何回もよみがえるフレーズ。



昔から、夕姫奈の方が断然女子力高くて、夕姫奈といるとまるで自分が本当に男みたいな感覚になった。



『由月?どーしたの?なんか、ボーッとしすぎ。もしかして…由月さん、恋でもしました?』

夕姫奈はからかうように笑いながらそう言った。



いつもだったら、すぐ反論するはずなのに、少し考えてしまった。



『別に。なんか変な転校生が今日来たからさ。』
とごまかす。



『ふーん。そーなんだ。それが恋のお相手なんだ。』
夕姫奈はいたずらに笑って、ベットに入った。


『夕姫奈。いい加減にして。好きとか、そんな感情、人に抱くはずないじゃん。』
精一杯強がった。



『はいはい。由月さんは転校生が気になるだけで、好きではないと。もう寝ましょうか。意地っ張りな由月さん?』
夕姫奈は笑いながら私に聞く。



『もういいから。寝よ。』
夕姫奈に言われた言葉は夜中じゅう頭の中にまわっていた。






『恋でもしました?』


恋。






よくわからないまま、日が昇った。
< 5 / 239 >

この作品をシェア

pagetop