アイシング、マイラブソング
店内をぐるりと一周する間、
2、3本の目星を付けた。

僕は映画に関しては、観たいと思いながらもいつの間にか上映が終わっていたということがあまりに多い。

絞り込むのに非常に悩んだ。


―千架は何か見つけたかな


そう思って棚の間をひとつひとつ覗きながら、
彼女を探した。


「千架!」


探し始めて5列目、

彼女がいたのは新作コーナーだった。


何か気になるものがあったのだろう、
ひとつ手に取って、

ケースの裏表のあおり文句を懸命に読んでいた。

「あ、悠。見たいものあった?」


「うーん、いろいろあって迷ってる…千架は?その手に持ってるのは」

千架は
「よくツッこんでくれました!」
と言わんばかりに一瞬、
にやっとした。


そして、漫画で良くある

“バレンタインに憧れの先輩にチョコレートを渡すシーン”

を思わせる、

両手でプレゼントを突き出すような勢いある仕草を、物をビデオケースに変えてやってみせた。


「あ、これ…」


千架の表情の意味がすぐ分かった。
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