アイシング、マイラブソング
「あたしたちが初めて一緒に観た映画!『アイビームーン』!もうビデオになってる!」


「ホントだ!何か懐かしいな」


「これにしよう」


「え、見たじゃん」


「だって…恋人同士になってからは観てないじゃん?たぶん見方が変わってると思う」


「…そうだな」



むずがゆい思いがした。

千架と恋人同士になれたこと、

改めて噛み締めた。



その一本だけを借りて、店を出た。

コンビニもすぐそばにあるので、
少し贅沢をしてお菓子やらジュースやらをたくさん買った。


自転車にまたがって、
後は僕の家に向かうだけ。


少し遠回りになるけれど、

あえて川沿いの道を走った。


せっかく天気がいいので、
少しでも多く外に居ないと勿体ない。



「風が気持ちい~!」


「こういう感じ、いいね」


「悠、重くない?変わろうか?」


「千架が運転するのは無理だって!大丈夫だよ。一応サッカーで鍛えてますから」


「あたしも歌のために腹筋鍛えてるんだよ!体力ないと思ったら大間違い」


「そりゃすげぇ」


隣で共に進む川の水も、
僕らの時間と同じように穏やかに流れる。


こうして千架とずっと居られたら。


ゆっくり一緒に歩んでいけたら。


僕の想いが川と重なって
速度も自然と緩くなった。
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