アイシング、マイラブソング
コツ コツ コツ



ヒールが木のステージを快く叩き、

控えめと堂々とが混じったような雰囲気で、

颯爽と千架が現れた。


その登場シーンはまるで、

スター。



―本当に遠いな…



予感が的中し、

ひどく落ちこんだ。


そんな僕をよそに

千架は白のワンピースをひらひらさせながら

真ん中の定位置に立った。



「5番、
 藤堂千架です。
 曲は『まごころ』です。

 みなさん、

 目を閉じて、

 聞いてください。

 大切な人を
 思い浮かべながら…」


会場の観客はざわめきながらも斬新な千架の言葉に素直に従った。

隣の美和もイントロが始まると目をつむって下を向いた。




僕は、

ステージ上の千架から

目をそらさなかった。



千架も、

こっちを見てたから。

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