アイシング、マイラブソング
「三上なにやってるの?」



千架がくすくすと笑った。


「はは、やっちゃった。」


それだけでうれしかった。



ほとんど日暮れた灰色の梅雨空。

雨はほとんど止んでいた。

駅前まで
隣同士並んで歩く。


その間、
僕はずっと迷っていた。



―メアド…聞いていいかな…?



ちらちら様子をうかがう。



―やっぱかわいいなぁ、この子。



バカみたいにメアドのことが吹っ飛んで、メロメロになった。


途中、千架が自転車置き場へ吸い込まれるように入っていった。

僕は徒歩なので無意識にその手前で立ち止まった。



「あ、あたし自転車なんだ。三上は?」


「歩きだよ」


「そっか…」



―まぁいっか。



元々、憧れで終わる存在だったんだ。


これ以上関わったら絶対にハマる。


フラれて終わるくらいなら、

ここで終わっておいた方が思い出は美しい。




「じゃあ、な~」




僕は潔く手を振った。



大きく、大きく、

手の平で千架をかき消すように。
< 19 / 271 >

この作品をシェア

pagetop