アイシング、マイラブソング
《まもなく電車がまいります》


僕はもちろん、
この電車には乗らない。


地元の駅で顔を合わせるかもしれないから…


と、

これで用意周到ぶったのがいけなかった。



千架が乗った場所は
電車の方向的に僕の前を通っていく。


僕は電車が動き出してからそれに気づいて、


―千架があっち側に乗ってますように!


と早口で祈りつつ、

自分の姿が見られないように自販機の裏に完全に隠れようとしたのだが。





バッチリ目が合った。





千架はこっち側の扉の前に立っていて


僕に気付いてから

電車が遠のくまでの5秒間、


目をそらさなかった。



何か物言いたげな

切ない表情…。



30分後に祥が来るまで

脳裏に焼き付くその千架に捕らわれて

その場を動くことができなかった。
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