アイシング、マイラブソング
「そこまで言うなら聞いて」


「何を?」



「千架のホントの気持ち」



ゴクリとつばをのんだ。


自分の知らない千架…

聞く価値は充分ある。

むしろ聞きたくてしかたなかった『本音』…。



「千架は悠くんに何も言ってないみたいだけど、だいぶ前にうちら二人で見に行ったあの歌の発表会の時にね、ある芸能事務所にスカウトされたの」


進路の話になった時の、大袈裟に笑ってよそよそしかった千架を思い出した。



―あの時きっと、すでに心は決まっていたんだ…。



「それから色々話し合って事務所に登録したんだけど、彼氏とは別れろって話になったみたい」


「ふ~ん…」


「もちろん別れないってきっぱり言ったらしいけどね、事務所の人が悠くんの気持ちを言うもんだから、揺らいじゃったみたいで」


「は?俺の気持ち?」


「千架が東京に行けば必然的に遠距離恋愛になる。そしたら彼氏を寂しくさせる。自分は夢を追って、彼氏を放っておいて、都合良くないか、って」



―そんなの、体(てい)良く別れさせたいだけじゃないか…



「千架はそれに納得して…。悠くんを自分が縛ってちゃいけない、めったに会えない自分よりも新しい彼女を作った方がしあわせだろうって、言ってた」



「ははっ…バカだな…」



―千架…ちっとも俺のしあわせ解ってねえよ…



しかし、僕がそうぼやいた途端、美和はムッとしながら聞いてきた。
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