アイシング、マイラブソング
「千架…」



思わず禁句がぽろっと出る。


やさしい音色の後奏が感傷にひたる僕を包んで、

まるで千架に抱かれているような、

せつなくて温かい気分。



千架が歌っている間、二人の様々な思い出が次々に波が押し寄せるように蘇ってきた。



梅雨のプラットホームでの再会。


メールの返信が来て嬉しかったこと。


初デートは緊張の連続で。


人生最大と言えるくらいの賭けだった告白。


「かわいいね」って言うと照れる千架。


川沿いニケツと、月夜のキス。


初めての夜の潤んだ千架の瞳。


手を繋いでパティーでデート。


別れ話でどん底にいた日々。


千架の秘めた想い、実和から聞いて知った日。


身を刻まれる思いで迎えた見送り。


そして、今ここでこの歌を聴いたこと。




すべて彼女のおかげで味わった、

甘い、苦い、楽しい、辛い、幸福な経験。
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