アイシング、マイラブソング


「あ」




たぶんズボンごとそのまま洗濯したんだろう、

いつのだか分からない布の塊みたいなものが出てきた。

思わず溜め息をつく。



―肝心なとこで抜けてんな…俺。



そうこうするうち、

CMで聞き覚えのある主題歌と共にエンドロールが流れ始めた。




―もう終わり?!




映画も観ずに考え事や千架ばかり気にしていた僕は後悔した。

せっかく恋愛の勉強にもなるかなと思ったのに…。




「あ~感動した!」




ざわつき始めたまだ薄暗い館内で、涙目の千架が伸びをしながら言った。



「観れて良かったぁ」



メイクを気にしながら指でぽんぽんと涙を拭い始めた。




―俺が、拭えたらなぁ…




実際、

千架の肩越しに後ろのカップルがそれをしているのが見えた。


男の方が、親指で女の子の涙を拭ってあげていた。



その光景を、

なんとなしに頭の中で千架と自分に置き換えた。


そして

ぼんやりと思った。



―俺もあれをやってあげたい。

―あの子にじゃなくて

―誰でもいいんじゃなくて



―藤堂に…。

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