アイシング、マイラブソング
急いで着替え、

駅前まで自転車をすっ飛ばした。

親には祥の家へ行くと言って。


ロータリーのところにはすでに千架の姿があった。

ここにはちょっとした待ち合わせスペースがあり、ベンチも充実している。

そこの一部分にちょこんと腰掛けて、

誰でもなく僕を待っていた。


そう思うとやけにテンションが上がった。



「おまたせ」



―ちょっと彼氏みたい?


ついまた浮かれてしまった。



「ううん、ありがとう…」



やっぱり、

電話口と同じく元気がない。


確実に自分への告白ではないことを悟ったと同時に

心配が膨れ上がった。


すっと隣に座り

「何かあったの?」

できるだけ優しく聞いた。


言いたくないこともあるだろうし、


千架が自分を呼び出した真意もよく分からないし、


彼女の出方を待つしかない。




「…今日は歌のレッスンの日だったんだけど…歌に心が無いって言われちゃった…」




―それで落ち込んでるのか



僕は千架の横顔を見ながら、
頷いては聞き続けた。




「今まで歌には自信があったんだけど…何だか身が入らないっていうか、良くわからなくなってきて」




―スランプってやつかな




僕はそう思いながら千架をどう励ますか必死で考える。




「やめようかな…」




千架は弱気につぶやいた。
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