アイシング、マイラブソング
その授業後に初めて口を利いた。

確か「歌上手いね」とかありきたりな言葉で褒め称えた気がする…

…が、このあたり、興奮していて覚えていない。



そして、

調べる気はなくとも、彼女の基本情報は簡単に耳に入った。


・なるほどと思ったが、歌の塾みたいなのに通っているらしい

・歌手を目指しているらしい

・犬を飼っているらしい

・彼氏はいないらしい

などなど。


学校の有名人なだけある。



かくして、

たくさんの男子が色めき立っていたので、

僕が彼女の特別になろうなんてことは思わなかった。


『コクる』だとか、考えもしなかった。



そう、テレビの中のアイドルみたいな、

手の届かない存在。



そんな子が今

目の前にいるのだから

僕は落ち着かなくて当たり前なんだと思っていた。
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