幕末陰陽師
夜道を歩く。
先の戦で、京の街は荒れていた。
この国の情勢など、人でない私には関係が無い。
同じ種の人間同士が“じょうい”だの“そんのう”だのと唱えて血を流す。
私にはそれが酷く滑稽に見えてならなかった。
主様も人でありながら、世の流れには関与しようとしなかった。
だが、鳥羽の戦以降、状況が変わった。
この時代ではめったに現れることのなかった異形。
戦が多発するようになり、そこで死んだ死者の怨念が悪霊となり、ついには異形に成り果てる。
異形は人を襲い、魂を食らう。
鳥羽の戦の後、その異形は京に頻繁に現れるようになった。
しかし、異形の存在など信じるものはおらず、異形に殺された人々は、表向きでは辻斬りとされた。
主様が何故異形を調伏しているのかは私には分からない。
だが、偽善や人助けではないことは確かだ。
主様は調伏することに快楽を覚えている。