幕末陰陽師
左耳がうずく。
…結局あの男を斬ることが出来なかった。
主様の指示に従えなかった。
そればかりか、主様を守ることすら出来なかったのだ。
あの男は一体何者なのだ?
私は“獲物”に対して初めて興味を持った。
屈辱、と言うのだろうか。左耳がうずくたびに言いようの無い怒りが静かに私の中に沸き上がった。
あの男の喉を噛み切ってやりたい。
獣の本能が、初めて抱いた複雑な感情とあいまって、そう言っているような気がした。