幕末陰陽師
月が妙に明るかった。
明るく、そして血走っていた。






静寂は死を待つ男とそれを看取る女の間を包んでいた。






「……やく…そく……やくそくを…」






男は虫の息で言葉を連ねた。
それは確かな意志を持ち、強固な信念が彼の命をつなぎ止めているようだった。





「……み、さ…と……会いたかっ…」






「…!!」






男が呟いたその名前に、私は戦慄し、全てを悟った。






「……っ」






溢れて言葉が出て来なかった。こんなにも悲しい出会いがあろうものか。






幼少の頃、別れた兄と交わした約束を、こんな形で果たすことになるなど…
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