幕末陰陽師
今でもあの夜の主様を覚えている。

どこか哀しげな表情をした女。
その女に、私は膝をつくようにしてすがりつく。
甘い伽羅の香りが鼻をくすぐり、長い髪が揺らめいていた。




そして女はこう言った。
『私はあなたを“道具”としか見なさない』




それが主様が私に言った一番最初の言葉だった。












いつか主様が言っていた。

お前は以前野孤だった、と。
それから主様は私の事を“キツネ”と呼ぶようになった。




私は、自分が何者であっても、どう呼ばれようとも、どうでもよかった。
< 9 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop