近くて遠い恋夏
その日は朝から緊張していた。
大学入試の時だってこんなにドキドキしなかった。
それだけ「病院」というものに無縁だったんだ。
自宅から1時間。その病院は駅から10分位の車の通りが激しい道路に面して建っているとは聞いていたものの…
方向音痴の私は案の定道に迷った。
しょうがない、適当にそこら辺の人に聞いてみよう。
辺りをキョロキョロしているとちょうど私の後ろから人が通りすぎた。
「あの!すみません…ここら辺にある大きな病院探してるんですけど知りませんか?」
振り返ったその人は身長はちょっと低めだけど顔は結構かっこよくて20代後半位の男の人だった。
なんだかクスクス笑い出して私の後ろを指差した。
「君の後ろにあるあの道の向こうにある建物だよ」って教えてくれたんだ。
恥ずかしくなった。すぐ後ろにあったのに気付かなかったなんて…
お礼を言おうと思って振り返ると…もうその男の人はいなかった…