見えないモノと、指の銃。


ぐるりと一周、してみたはいいけれど、
やっぱり何も起こらない。

少し前を歩く彼に、もう帰ろうと声をかけようとした。

だけどその時、足が何かに躓いた。

「うわっ」

転んで、手をついた。

土しか無い筈の地面。
だけど何かが、俺の手首に触った。

「大丈夫ですか?
あーあー、もう、泥つけちゃって。
なんで何も無い所で転ぶんですか」

バッと地面から手を離すと、
振り返った彼が寄ってきて、手についた土を払ってくれた。

その時に手首を掴んだ、手。

同じだ。


転んだ時に俺の手首に触れたのは手だった。

もう少し離すのが遅れていたなら、
きっと掴まれていただろう。


……でも、一体誰に?


「?どうしました?」

「なんでもない。帰ろう」


気のせいだ。
そんな訳、あるはずない。

そう言い聞かせて、
この敷地内から立ち去ろうと歩き出した。


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