見えないモノと、指の銃。

「先輩は自分で憑りついてる事も
気が付かない位ですから、
自分でどうにかするよりも、
八紀に任せればいいと思いますよ」

引き留める事が出来るのだから、
居る気がない奴を追い出すのは簡単だろうと、そう言った。


「要は、八紀を安心させればいいんです」

ニヤニヤ笑いはまだ続く。


安心しろよ八紀。
ちゃんと戻るから。
もう飛び降りようとか考えないから。

そう念じてみるも、何も変わらない。


「……どうしろと?」

「そうですね……八紀の事、好きですか?
昔みたいに、仲良くできます?」


そう問われ、ハッキリとは答えられない。
まだ真っ直ぐに見られないかもしれない。

だけど。


「努力は……してみる。
八つ当たりも、逃げもしない」

決めた。

いくら嘆いたって、
理想通りの自分にはなれない。
だけどそこから、逃げたりしない。


これでいいか?八紀。


「それじゃあ、俺の今の質問を、
肯定する感じに復唱してみましょうか。
とりあえず、言葉って大事ですから」

そんな感じに言われ、試してみる。


気恥ずかしい。
そんな思いを抱えながら口にして、
言い終わった所で顔を上げた。

……三枝はやっぱり、笑いをこらえている。

謀られた。

今のはただの、からかいだろう。

怒鳴りつけてやろうと口を開いた。

その時だった。
俺の意識は、ここじゃないどこかへと引っ張られていく。

だけどこれは、嫌じゃない。
昨日とは違う。

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