キミ時間



あたしは、困った笑顔を向ける先輩の手を一度離しチケットを買いにいった。


「大人二枚ください」


少し湿った手をふきながら、カウンターのお姉さんにいった。

すぐにチケットをもらい、お金を払う。


「……はぁ」


あたしって本当に無力だな。

あんな顔をしてる先輩に、なにも声をかけてあげられないんだから。


だからってわけじゃないけど、星を見て、少しは元気になってほしいな。


「先輩、おまたせ…」

「あ、咲久…!!」


あたしが戻ると、先輩は見知らぬ女性と話をしていた。


「もしかして、ゆーくんの彼女?」

「違うかよ。この子は高校の後輩、大橋咲久ね」


「あっ、こないだ天体観測一緒にした子でしょ?」


楽しそうに話す二人。

あたしは話なんてもちろん参加なんてできずに、ただ眺めていた。


すごい花がある笑顔。

見ていると、惹きこまれそう。


先輩も時々、優しそうに笑っている。


誰かなんて聞かなくてもすぐにわかる。



この人が先輩の想い人。




「櫻井さん、そろそろ行かないと映画、遅れちゃいますよ」

「あっ、そうだった!!ごめん、先生~」


バイバイ、と仲良さそうに彼女を呼んだ男の人と一緒に館内を出ていった。


彼氏がいたんだ。


なら、想いを伝えられないのも無理はないかな。




「咲久…ごめんね、大丈夫?」


「あたしより、先輩のほうが…」


「俺は、慣れてるから」


慣れてる。


それって、こうゆうことが前にも何度かあったってこと?






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