キミ時間
さよなら、
―Yuiri ―
こんなに走ったことなんてなかった。
手を引かれながら、彼のペースで自分の足が動いていく。
ハァハァ、と息を切らせながら、夏の青空のしたを駆け抜けていく。
「ここ、って……」
今、綺麗な外壁と大きな敷地に建つ高校の前にいる。
なんで、ここにいるんだろう。
田中くんの考えが、優衣には分からなかった。
「今日もどうせ練習してんだろ、壱也ってやつ?」
辺りを見ると下校する生徒たち。
「な、なんで今さら壱也なんかに会わなきゃいけないの!?」
「トラウマ克服?のためかな~」
まるで他人事みたいに言い放つ。
「結衣里はさ、先に進みたいとか思わないの?」
先に進む?
新しい恋をするってことかな。
「いつまでもさ、過去の恋愛に縛られてたら楽しくいんじゃね?
それに、俺も困るからさ」
なんて勝手な理由だ。
もし仮に、壱也のことを克服したとしても、田中くんのこと好きになる保証なんてないのに。
…あ、でも。
「行こ?」
この自信たっぷりな笑み。
田中くんはいつも自信に溢れている。
羨ましい。
「………。」
結衣も変わるって決めたんだから、こんなところでウジウジしててもしょうがないよね。
コクン…と、小さくうなずいた。
それを合図に、田中くんは待ってましたかと言うようにまた結衣の手を引いていく。