キミ時間



そうこうしているうちに、時間はだいぶ経っていた。


田中くんは手をパタパタとさせながら暑さをしのごうとしている。

ポタン…と、落ちた汗。


そんな落ちた汗を見ながら、深呼吸した。




「うん…、行くよ」


そう決意を固めて、優衣は近くのベンチに座った。

それを見た田中くんは、ゆっくりと笑い、隣に腰かける。


壱也の部活が終わったら、ちゃんとはなそう。

なにを話すかとか、全く決まってないけど。

とりあえず、言葉を交わせるなら。


あの時、聞けなかったことを聞いてみよう。




「あのさ、」

「え、なに!?」


突然、田中くんが声を発した。

田中くんの方を見ると、田中くんは真っ直ぐとグラウンドを見ている。


「もしもさ、アイツが優衣里のこと好きなら、より戻すの?」



よりを戻す?

そんなこと考えたこともなかった。


チラッと優衣をとらえる彼の瞳。

優衣は自然に首を横に振る。


「もう、壱也のことそんな風に見てないよ。

 優衣にとって、壱也は過去のひとだもん」


そう言いきったのは本心で。

ちゃんと言えたのは、田中くんが隣にいるから。


優衣は少しだけ震える手を握った。








< 145 / 164 >

この作品をシェア

pagetop