キミ時間
「たなかくん…」
優衣の手を優しく包み込むように、田中くんが握る。
安心て言うか、落ち着く。
少し汗ばんだ手を開き、ぎこちなく優衣と田中くんは手を繋いだ。
頑張れ。
って言われてるみたい。
「行くね」
そう言って立ち上がる。
――ジャリッ
一歩踏み出すと、砂利の音が響いた。
部活を終えた人たちは、ほとんど部室に戻っていて、さっきまでとは違い静かだ。
ただひとつ残るボールを蹴る音以外は。
一歩…一歩…、とグラウンドに入っていく。
まるで中学生に戻ったみたい。
あの時はよく、壱也が居残るのをグラウンドで見ていた。
毎日毎日、遅くまで練習している彼を。
誰よりも頑張ってる壱也が好きだったから。
「…いちや……」
小さく呼んだ声に、彼は驚いたように振り向いた。
彼が蹴ったボールは、ゴールを外して木々の中へ。
「あ、」
なんて、二人そろってボールを目でおった。