キミ時間
しばらく無言が続く。
お互いなにも喋らないで、ただ見つめているだけ。
「………」
何年も口をきいていない間に、壱也はだいぶ大人びたと思う。
背もあの頃より伸びていて、声なんかはだいぶ低い。
しかも、サッカー部に入っていて鍛えられた筋肉がガッチリついている。
中学の時より、かっこいいと思う。
「あのさ、今とか付き合ってるやつ、いるの?」
少し視線を優衣から後ろに向ける壱也。
その視線を追うように、優衣は後ろを振り向くと、そこには田中くんの姿。
「いないよ。田中くんは、彼氏じゃないよ」
「あ…だよね、男嫌いになってたんだよな。悪い」
はぁ、とため息混じりな彼。
優衣は少しだけ言葉を躊躇した。
なんだか、本当に中学時代に戻った気がしたから。
だからかな、彼がなにか言いたげなそのなにかが何となく分かる気がした。
「壱也はさ、彼女とかいないの?」
「あ~俺はさ、サッカーばかだからモテないし、優衣里の件があってからは誰ともつきあってないよ」
「優衣のことなんて気にしなきゃいいのに。」
「そんなことできるわけないじゃん!!」
少し強く出された言葉に驚いて、真っ直ぐ彼に目をあわせた。
真剣で、反らすことができない瞳。
「俺、今でも優衣里が好きなんだよ」
苦しそうな表情を浮かべ、喉につまった何かを吐き出すように出された言葉。
やっぱりか。
何て思いながら、込み上げてきた涙をおさえた。