キミ時間
「あれ、大地どこ行くの?」
靴をはきかえていると、教科書を抱えた栞奈がニコニコと俺の方に近づいてくる。
俺はさっきまでイライラしていた感情がその笑顔を見た瞬間、少しずつ消えていくのがわかった。
葵には悪いけど、俺はやっぱり栞奈が好きだ。
「……帰るわ。だから、今日は一人で帰ってきて」
「あ~それは別にいいけど、」
なにか言いたげな顔。
たぶん、栞奈のことだから、俺になんかあったと思ってる。
相変わらず勘がいいな。
だてに幼馴染み歴が長いわけじゃないな。
「心配しなくても、調子が悪いだけだよ」
ポン、と俺は優しく栞奈の頭を撫でた。
その行動になにも言わずにコクりと頷くと、俺をまっすぐと見つめる。
「あのさ」
「大地!?」
栞奈の口から何かを発しようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
俺はその聞き覚えのある声の方に振り向いた。
間違うはずもない。
この数週間の間、なんども耳にした声なんだから。
「……なに、葵?」