キミ時間
あたしは、雪先輩の手を離し、彼氏のもとへと向かった。
ドンッ
「どうぞ、お幸せに」
みぞおちに蹴りをくらわせ、今度はあたしが彼の手を引いて、その場を去った。
歩きながら、やっぱりあたしは彼のことがあまり好きではないと思った。
“今、好きな人いるでしょ?”
不意に優衣里の言葉が頭に浮かんだ。
「咲久………。ごめんな、」
あたしはその声に振り返り、雪先輩に向かって笑いかけた。
「大丈夫ですよ。
もともと、そんなに好きじゃなかったみたいだから」
困ったように笑う彼。
あたしもつられて、困ったように笑う。
「先輩、あたしのこと可哀想だからメールとかくれたの?」
少し驚いた顔をしたあと、先輩は真剣な顔をした。
「それは違うよ。咲久だから、したんだよ…」
そう言った後に笑った彼の顔に、あたしは安心した。
先輩、ありがとう。
そう言いたいのに、おもうように言葉が出ない。
「え、咲久??どうした?」
オロオロと焦り始める先輩。
まあ、焦るのも無理はないか。
あたしは、知らぬ間に涙を流していたんだから。
それは拭っても拭っても止まらなくて。
あたしの中にはなにかが芽生えた気がした。
この人そばにいると安心する。
これが恋なんだろうか?
好きってことなんだろうか?
“好きな人いるでしょ?”
やっぱり優衣里はすごいな。
あたしは、泣きながら、先輩の気づかれないように少し笑った。