キミ時間


「あ、お金」


あたしは急いで手に持っていたお財布から500円玉を取り出した。

が、その手は、すぐさま先輩に押さえられて満面の笑みで。


「これくらい、俺が出すよ。

 一応男だし」


あたしはそんな先輩に敵わず、500円玉をお財布に入れ直した。


この人は、一度言い出したら聞かない人。

メールとか電話で、さんざん思い知らされたあたしは、大人しくしたほうが身のためだと思った。


面倒くさいことになるのも嫌だし。


「雪先輩、ありがとうございます」

「いいえ。」


ふわっ、とした笑みで、雪先輩はまた笑った。


先輩といると、落ち着く。


この関係が…。


でも、もしあたしと先輩が付き合ったらどうなるんだろう。


あたしは、また、元カレ達みたいなことをしてしまうんだろうか。


それだけは嫌だ。


今回は今までと違う。


あたしには、ちゃんと気持ちがある。


だから、恐い。


先輩がそばから離れるのは。


今だってそう。


さっき自覚したばかりなのに、こんなにも先輩の存在が大きいんだ。






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