キミ時間


「ちが、う。




 …悪いのは、優衣だよ」


勝手に誤解して、勝手な事情で田中くんをいつも傷つけてしまう、優衣のせい。

だから、田中くんが謝らないで。


泣きそうなのこらえて、優衣は真っ直ぐに田中くんを見た。

目の前にいる田中くんは、少し驚いたような顔をしている。


「…、じゃあ、おあいこで」


ニカッ、といつもの田中くんの笑顔。


なんだかホッとした。


どうして優衣は、田中くんを女の子と間違えたんだろうか。

ちゃんと見れば、男の子なのに。


「田中くん、ごめんね…」


少し震えた声で、田中くんにあやまった。

彼はまた、少し驚いてから笑った。


一歩前進…かな。


安心した優衣は、また作業に取りかかろうとした。

そんな優衣の後ろから、田中くんに言葉を投げ掛けられた。



「…、早川、こないだのことは、もう気にしなくていいから。

 早川のことは友達として見るから…」


彼の表情は後ろを向いててわからなかった。

でも、声のトーンがいつもと違った。


こないだ、優衣にこくはくしてきた時と同じ。


彼らしい、優しい言葉。




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